ベルギーの暗黒、ユニヴェル・ゼロ
RIO とは、Rock in Opposition のことで、1970年代の後半、Virgin に首を切られた Henry Cow の Chris Cutler が各国の変態バンドに声を掛けて、自主盤作ろうぜ、との掛け声の下、コンサートを開いた。それが始まり。左派的な言動が多く、ちょっと辟易とするところもあるが、参加したバンドは種々様々で全体が政治的・主義的にそうだという訳でもなさそうだ。
この最初のコンサートに参加したのが、イギリスの Henry Cow 声を掛けた張本人、フランスの Etron Fou Leloublan 、イタリアの Stormy Six、スェーデンの Samla Mammas Manna 、そして今回取り上げるベルギーの Univers Zero の5バンド。何れ劣らぬ変態バンドではあるが、今でも聴いているのは、 Henry Cow 、Etron Fou Leloublan 、Univers Zero のみ。Stormy Sixは歌に関わる部分が多いこと(それだけ主義が前面に出ることになる)、 Samla Mammas Manna は通常の楽器編成で、後期はテクニカルな面が強く面白みがあまり感じられなかったことが理由か。まあ、感じ方の問題、好き嫌いの類といっておいても良い。同じことが、後にRIOに加入するフランスの Art Zoyd にもいえる訳で、Univers Zero と並び称されるのだから、好きなんだろうといわれるかも知れないが、如何にも初期のドラムレス構成は、不安定感が大き過ぎた。また、Nosferato 以降の電子音楽化の流れが気に食わない。いちゃもんの付けっぱなしといったところだが、これも好き嫌いのうち、といったところで。
さて、Univers Zero 。ドラマーの Daniel Denis とギタリスト Roger Trigaux により設立されたバンドで、70年代後半から80年代半ばに活動、その後長い休眠に入り90年代末に復活、現在に至る。
生来の複雑で、冥い音楽好きにとって Univers Zero はご馳走であった、特に1枚目と2枚目は趣味に完全合致で、AKB ではないがヘヴィー・ローテーションでターンテーブルに乗ったのである。リーダーがドラマーであると推進力が違う、ヴァイオリンやバスーンがメイン楽器であっても十分にロックのダイナミズムを感じさせてくれる。また、後期と異なり、生楽器の音が良い。前にも書いたが、電子音楽はあまり好きではなく、シンセサイザーにはちょっとした敵意があるので、Univers Zero の初期作には肩入れしてしまうところなのだ。
そもそも、彼らがデビューした70年代後半は、パンク・ロックの台頭、フュージョンの全盛(Weater Report の最盛期)、ポップ化の波など、世の中は「分かり易い」方向に進んでいたはずである。そこにこの複雑怪奇、非常な密度の暗黒音楽がどのように聴かれ、生き延びてきたのか、興味のあるところだ。結局いつの時代でも、スノッブな臍曲がり野郎(女性も含む)は一定数いるということなんだろうか。
最初のアルバムは、Univers Zero (s/t) 。キューニーフォームから再発された際には、「1313」と改題されたが、2008年にリマスター、ボーナス・トラック付で再再発されたときに元の題名に戻った。7人編成でヴァイオリン2名、バスーン1名がフロント、ハーモニウム・スピネットのキーボードもいい味を出しているし、ギターも控えめながら存在感がある。
変拍子を多用しながら、それでもロックを感じさせるのは、Denis のドラムの推進力によるところ大。2枚目の再発盤には75年の曲が1曲加えられているが、管が居ないだけでロック色が強まるのがはっきりと判る。
左のジャケットが2008年版、右のジャケットが最初の再発版。
2枚目は、Heresie 。異端という意味らしいが、全くその通りの音。1曲目の La Faulx は、「鎌」のことらしく、そういえば西洋の死神さんの武器は鎌と決まっていたね。鎌で思い出すのが、Henry Cow の Western Culture のジャケット、あれは共産主義の象徴である鎌と槌なんだろうが、同時期に全く対照的に「鎌」という曲が出来たとは。
重さで言えば、最初のアルバムの何倍も暗く重い。特に1曲目の最初の部分なぞ、ホラー映画のBGMそのものといった感じ(再発1stのボーナスで付け加えられたこの曲のライヴ、もっと重い雰囲気)。2曲目、3曲目も長尺で、体力不十分だとぐったりしてしまうかも。2曲目の Jack the Ripper は、2010年の Present のアルバムで再演されている。
左のジャケットが2010年版、右のジャケットが最初の再発版。
3枚目が Ceux Du Dehors 。このアルバムから Roger Trigaux が抜け、Andy Kirk が加入。やっぱり、弦・管が中心となるとギターの出番が少なくなる、そういうこともあって、ギター中心のチェンバー音楽がやりたくて Roger Trigaux は Present 結成に走る。
リズムがはっきりして、前作より比較的軽めの出来、聴きやすさから言えば、Zero の作品の中でも上位に位置するのではないか、快作である。
もうひとつ無駄話。やっぱり、こういう連中、Lovecraft が好きなんだ、5曲目が La Musique D'Erich Zann 。趣味嗜好は、同じ方向を向いている( Espers が Lovecraft 好きかどうかは知らない。あれは勝手な自分の妄想)。
このあと、バスーン奏者の Michel Berckmans が抜け、サックス・クラリネット奏者が加入し、キーボードの占める位置が高まることによって音楽の面貌も変わってくる。自分としては、初期の方が好きではあるが、音楽の「凶暴性」の面から見ると、後期の方が凄いかも。