プログレなんかじゃないぞ、グリフォン
一般的には、プログレのバンドだと思われている Gryphon だが、初期のアルバムを聴いてみればすぐに違うことが判るだろう。彼らはトラッドのバンドなのだ。後に Yes の前座を務めてエレクトリック・キーボードを大幅に導入し、プログレ・バンドとして認識されていく。確かに3枚目の Red Queen to Gryphon Three なんぞは、大曲ばかり4曲と堂々たるプログレ・アルバムになっている。好き嫌いの類ではあるが、自分としては、最初期のアコースティック・サウンドをずっと続けて欲しい思いであった。
今から30年も前、有名どころのバンドは、ラジオでもよく掛かるし、どこぞのロック喫茶に行ってもアルバムは大概は揃っていて、それなりに聴きこんでから自分でも購入しようか、ということになるのだが、2番手3番手のバンドはそういうわけにはいかない。変な趣味の友人が間違えて買ってきてしまった類の僥倖で聴ける機会が出来ることもあるが( Gentle Giant の Free Hand はその類)、Gryphon はそういったこともなく、つい最近まで聴く機会がなかった。
ここ10年ほどで、余程のマイナー・バンドでもない限り、大抵のバンドは復刻の機会があって、それに BBC あたりのライヴがCD化されたりして、一気に揃えられる場合が多い。ただ、復刻するレーベルが弱小だったりすると、すぐに欠品が出たりして、Amazon の悪徳マーケット・プレースを嬉しがらせることになるのだが。
ということで、本題に。Gryphon は、Royal College of Music 卒業の同窓生、Richard Harvey と Brian Gulland が作り、そこにギターの Graeme Taylor とパーカッション/ヴォーカルの Dave Oberlé が加わったカルテットとして成立した。もともと音楽的には、相当な専門的教育を受けた人たちなのだ(そう言えば、Gentle Giant の Kerry Minnear も王立音楽院の卒業生であったような・・・)。
1973年の1stアルバム Grypon(s/t)は、一切の電気楽器を使わずに、12の小曲を並べている。そのうち、7曲までがトラッドということで、昔の英国を想起させる牧歌的な印象が強い。特に、リコーダーという楽器がここまで美しい音が出せるものか、と驚く。リコーダーは小学生でも吹く通り、あまり難しい楽器とは思われないことが多いが、これはどのテクニックをあっさりと聴かせてくれたりすると思わずニヤリとしてしまう。これにダブル・リードのクルム・ホルンやバスーンが被り、ドラムもシンバルやバス・ドラムなしのポコポコ・リズム、ギターが時折マンドリンになったりするが、またそれもよし。出番は少ないのだが Dave Oberlé のヴォーカルも押し付けがましくなく、味わい深くてよい(特に Rain Dance の Mother Nature's Sun は出色)。
因みに、Grypon とは、上半身と羽が鷲(鷹?)で下半身がライオンの怪物。大昔からいろいろな物語に出演しているらしく、詳細はWikiで。英語では、Griffin といったと思う。日本にも鵺など、動物の混ぜ物の怪物は多く、人間の想像力なんか洋の東西を問わなく限界があったりして。
2ndアルバム Midnight Mushrumps は1974年発表。このアルバムからベーシストが加わり、ややロック色が強くなる。19分になんなんとする表題曲から始まり、5曲の小曲が続く。トラッド・ナンバーは1曲で後はメンバーのオリジナル。全体的には、キーボードの活躍が目立ち、今後の方向を示している。かなりのテクニックを要する演奏だと思うが、流れるように聴かせてしまう。
ジャケットの、メンバーの中世的な凝った服装と背景の薄暗い森に生える大きなキノコ(Mushrumps)が幻想的で、演奏自体の感じもよく現しており、グッド。
この時期の演奏を収めたライヴ集が Glastonbury Carol で、1972年と1974年の演奏を収める。72年の演奏は、完全なアコーステッィクで、アルバム通りのアレンジを聴かせる。74年の演奏は Midnight Mushrumps 1曲、キーボードやギターなどエレクトリック化しているので、ロック的な感じはもっと強まっている。ほぼアルバム通りのアレンジで、演奏力の高さを見せ付ける。2003年にリリースされた。
この後の彼らについては別稿に譲るが、短期間でプログレ・バンドになっていく過程が、良くも悪くも「聴き易さの時代」に合わせていったような感じがする。世間的には、3rdあたりが一番人気のようだが、1stのテクニック満載の素朴さが、やはり好きだ。