1980年代の衝撃、キップ・ハンラハンの登場
そんな弛緩した社会人になって、相変わらず聴くのはフリー・ジャズやアバン・ロックが多かった。その頃、仙台の Jazz & Now で通販で様々なレコードを買うようになって(主にヨーロッパ・インプロビゼーション)、その中で目に付いたのが Kip Hanrahan 。銀色に輝く背景に、髭面の男。題名は Coup de tête = 衝撃、1981年のバリバリの新録音、初発売。
ジャケット裏のクレジットを見て驚いた。当時のニューヨーク・アンダーグラウンド・シーンの錚々たるメンバーがずらり並んでいる。Chico Freeman や Byard Lancaster 、Carlos Ward などは、そんなところかなという印象はあるにせよ、Billy Bang だとちょっと系統が違うかなという思いがあったし(当時 String Trio of New York はかなり好きだったので)、George Cartwright はCurlew のリーダーでジャズ・シーンとは関係ないのでは、と思ったりしたものだ。他にも The Golden Palominos の Anton Fier だとか DNA の Arto Lindsay 、Fred Frith だのの前衛ロック系統、Jamaaladeen Tacuma や Bern Nix などの Ornette Coleman のハーモロデックス人脈など入り乱れてどんな音楽をやるのだろうと思ったものだ。
そして、レコードに針を落とす。それなりの仕掛けはあるにしろ、案外まともなラテンを演奏している、聴き込むうちにパーカッションの複合リズムと Lindsay のギター、Bill Laswell やTacumaのベースが絡み合い、重いずしっとくる感じが堪らない。これだけのメンバーを使って、こんなアルバムを作ってしまう人がいるんだ、と Kip の名前をつらつらと眺めた。
もともと、演奏家(打楽器、歌唱ともそんなに上手くはない、怒られそうだが)ではなく、プロデューサーとも言うべき立場が一番相応しい、自分に必要な駒(演奏家)で自分の思う世界を構築しようとする人ではなかろうか。
レコードのA面最後は、Carla Bley の鳥肌ものの歌唱が聴ける Indian Song 、B面の最終に Cecil McBee のベースに Teo Macero (!)、Dave Liebman 、Ward の3管が乗るノスタルジックな Heart on My Sleeve と心憎い曲配置で、聴いた後の満足感の高いアルバムだ。
それでも、衝撃度で言ったら次の Desire Develops an Edge の方が数段上を行く。初出時は、LP と 30cmEP との2枚組という変わった形でリリースされた本作は(45回転にせずに良くEPを掛けたものだ、1分近く気付かないこともあった?)、その内容の濃さ、楽曲のバラエティーの豊富さ、演奏の高度さから言って、軽く前作を凌駕する。
3作目で全面にフューチャーされる Jack Bruce が初登場し、渋い声を随所で聴かせるのと同時に、ますます分厚くなったラテン・パーカッション群の複合リズムは乱舞し、しかし、その間に不気味な現代音楽風の楽曲を取り混ぜるなど Kip マジック全開といったところで、当時は何度もターンテーブルに載ったものだ。Jack Bruce はご存知の通りイギリスのロック・トリオ、Cream のベーシスト兼ヴォーカリストで、どんな繋がりでNY アンダーグラウンド一派と仕事をするようになったのだろう、と不思議な感じがする(といって、調べようとは思わない・・・怠惰)。
3作目は、Vertical Currency 。1984年のリリースで、この頃自分も初配属の部門を離れ、次の部署への異動があった。内勤部門で自分の志向にも合っており、順調に仕事が進んだ、上司の指導も判り易く、今同じ会社に勤められているのもあの頃の上司のお陰だろうな、と思う。人間あくまで運、入社3年くらいで上司と揉めて辞めた同期はいたし、それが自分でなかったのは運以外何者でもない。
閑話休題、このアルバムは、全面に Bruce の歌が全面に出て、非常に聴きやすくなっている。ちょっと、よりもだいぶ歯応えのない感じで、1枚目2枚目を聴いてきた者とすれば、もうちょっと工夫してよ・・・と言いたくなってくる。まあ、BGMとして掛けるなら、Bruce の声をどう感じるかにもよるが、おしゃれなイメージ(大人の音楽?)はあるかな。
1986年のEP(収録時間15分程度) A Few Short Notes for the End Run から次のアルバムまで少し時間が空く。やはり、時間が空けば、気力が充実するのか、アイディアが湧いてくるのか、90年代前半のアルバム群は充実している。それはまた別稿で。