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日常茶飯事とCDコレクション
by ay0626
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ジョン・ゾーンの多面性を象徴する ネイキッド・シティ

 1990年代の初めというと、日本が経済的には最低線をさ迷い、アメリカは復調基調で徐々に競争力を盛り返してゆく過程にあったといえる。この頃がアメリカ・アンダーグラウンド音楽シーンの最も活気付いた時期と言えるのではないか。

 もともと、黒人を中心とした旧世代のフリー・ジャズが活気を失い、70年代末にはヨーロッパ・フリー・インプロヴィゼーションに影響を受けた世代が各地で活発化していった。西海岸で言えば、Rova Saxophone Quartet、Henry Kaiser を中心とした Metalanguage レーベルに集合した一派、Eugene Chadbourne 、John Zorn 、Polly Bradfield などが主要メンバーとなった Parachute レーベルを活動の拠点としたニューヨーク一派、アラバマという保守的な土地で活動した LaDonna Smith 、Davey Williams を中心とした Trans Musique レーベル一派など、殆ど目が離せない状態が数年間続いた。もうひとつの流れとして、No Wave といわれる前衛ロックの系譜があり、Arto Lindsay の DNA などがそれに当る。また、RIO の大立者 Fred Frith が70年代末にニューヨークに進出し、様々なバンドとの交流を深めていく。こうした流れの中で、様々なミュージシャンが離合集散し、変な音楽が大量生産されていく。まあ、楽しくも何をどう聴いたらよいのか、不明状態になる訳であった。

 しかしながら、やっぱり変な音楽はあくまで変な音楽であって、大きな市場(マーケット)が獲得出来る訳もない。どのバンドを見ても、中心人物が誰になるかで、サイドマンは知った顔ばかりという事態に陥るわけ、今回の Naked City も同じで、それもかなりの有名どころが参加しており、演奏技術は一流で、どんな音楽をリーダーである John Zorn が演出して見せるかが、最大の関心事になる。

 John Zorn は1953年の生まれ、アンダーグラウンド界の最高のオルガナイザーと言っていい。自身のレーベル Tzadik からは夥しいアヴァンギャルドCDをリリースし、自分自身も Naked City を始め、Pain Killer 、Masada など数々のグループを率いる他、作曲数も相当数に上る。大の親日家で高円寺に住み、日活のロマン・ポルノを愛し、ディスク・ユニオンと Avant レーベルを立ち上げるなどの活動をしている(Avant の成功(?)を見て Tzadik を立ち上げてたらしい)。
 他のメンバーも紹介しておくと、ギターの Bill Frisell 、ECM から Nonesuch レーベルに多くの録音を残す、John Zorn との関係は音楽面から見るとちょっと違和感ありだが、Nonesuch 繋がりで John の初期作品の The Big Gundown や Spillane にも参加していた。
 ベースの Fred Frith は言わずと知れた Henry Cow の創設者、この人も録音数は夥しいものがある。
 ドラムは、Joey Baron 、JMT レーベルでの Tim Burne 、Hank Roberts との Miniature の活動で聴いたのが最初だが、Bill Frisell との録音も多い。John とはこの後も Masada などで共演を重ねていくことになる。
 キーボードは Wayne Horvitz 。Pigpen などの活動で有名だが、一時は Curlew にも籍を置いていた(3枚目の Live in Berlin)こともある。
 最後にヴォーカルの山塚アイ、いわずと知れたボアダムスの親分にして変態、ギャ~~と叫ぶのが8割というスタイル。といった面々で、正にアングラ界のスーパー・バンドといった感じ。

ジョン・ゾーンの多面性を象徴する ネイキッド・シティ_a0248963_1683284.jpg Naked City には、スタジオ録音盤が6枚あるが、各盤ともかなり違った局面を見せる。
 最初のアルバムは、1990年の Naked City (s/t) 。007のテーマやバットマンのテーマ、エンニオ・モリコーニのカヴァーなど、有名曲のカバーを金切りサックスで直線的な音を吹きまくる Zorn がカッコいい、Frisell も切れまくりでシャープなジャズ寄りのロック、Zorn がアメリカ人というのがよく判る、全体的に明るく突き抜けた印象。
 10曲目から17曲目、20曲目は Torture Garden というアルバム(1989年)に収録されていた作品。Torture Garden は、スラッシュ・コア、ハード・コアのアルバムで1分に満たない曲を42曲も集めた作品集、9曲が Naked City に他33曲が2nd の Grand Guignol に収録されている。
 道路の上の射殺死体がモノクロームで。裏面は、丸尾末広の包帯にグルグル巻きにされた人の口に蟹が入っている絵。どういう趣味か、Naked City は、こんなジャケットばかり。

ジョン・ゾーンの多面性を象徴する ネイキッド・シティ_a0248963_169448.jpg 2枚目は、Grand Guignol 。1992年録音。 Grand Guignol という長尺曲(18分強)と現代音楽のカヴァー8曲、そして Torture Garden からの33曲で成り立つ。Grand Guignol は、wiki のNaked City 紹介にある fast-change という言葉どおりの曲、Zorn の作曲スタイルは、70年代末から80年代初めのゲーム・ミュージック(ファミコンなどのゲームとは関係ない)の Pool や Hockeyにまで遡るまでもなく、様々の要素が前後に影響されずに表出するものが多いが、これは正に典型。
 現代音楽のカヴァーは、メロディーとしては何となく判る程度、幻想的な感じで、落ち着いて聴ける。各人の演奏力の高さも判ろうというもの、Naked City 全アルバムの中で、ここの部分が最も好きだ。
 Torture Garden 収録曲に移るときの落差にびっくりしてはいけません、Zorn のアルバムなんてこんな感じはざらですから。
 ジャケットはえげつないの一言。女子には買えません。

ジョン・ゾーンの多面性を象徴する ネイキッド・シティ_a0248963_1692351.jpg 3枚目が Heretic 。1992年(91年録音?)。ジャケットは、Zorn のSM趣味満開。自分も買うときに一瞬女子店員さんから目を逸らせました、はい。
 完全な即興演奏集で、2人から3人の少人数での演奏、全員が揃っての演奏は21曲目のみ。架空映画のサウンド・トラックという建前だが、こんな騒々しい演奏では、セリフも聞き取れないだろう。流石にこのメンバーだと即興も手練で、飽きさせることはない。Torture Garden の曲は作曲の賜物なので、即興であるこの作品とは聴いた感じはかなり異なる。

ジョン・ゾーンの多面性を象徴する ネイキッド・シティ_a0248963_169472.jpg 4枚目が 凌遅 LENG TCH’E、これも92年、全1曲31分。どうもこのバンド、91年から92年までで全てのアルバムを作成したようだ。
 レンチェ、というのは中国の最悪の死刑で、体を少しずつ切り刻んで、苦痛を最大限に与えるような処刑方法のこと。しかしながら、これは公開で行われ、沢山の見物人が詰め掛けたということで、例えば山田風太郎の「妖異金瓶梅」でもこれを見に行く潘金蓮の様子が描かれているが、別に気分が悪くなるようなこともなく、「今日の罪人は、根性なく早く逝ってしまったね」くらいの感じであった。昔の人は、血生臭いことに慣れていたのだろうか、そんな処刑方法が今でもあったら、どうってことなく現代人でも見学できるんだろうか。それとも、人間にはもともとそういった残虐への嗜好があるのだろうか、そんな気がしなくもないが。
 通奏低音のような重い、変化の少ない演奏がかなり長く続き、その上に突然、ヤマンタカ・アイの絶叫と Zorn の金切りサックスが被さる。聴き通すにも、やや根性の要るアルバム。

ジョン・ゾーンの多面性を象徴する ネイキッド・シティ_a0248963_16101695.jpg 5枚目は Radio 93年(92年録音)。これもジャケットがエグイ。特に裏面は 尻 だ!何を一体考えているのだろうか。
 内容的には、Zorn 的ヒット・パレードという感じで、アメリカン・ポップ的な側面も感じられる。ヤマンタカ・アイご登場の11曲目からは、明るいんだかなんだか判らなくなって行くが、全体的には出来が良い。烏鵲の娯楽室さんの意見に賛成、烏鵲さんの Zorn 追っかけの素晴らしさに脱帽です。

ジョン・ゾーンの多面性を象徴する ネイキッド・シティ_a0248963_16104267.jpg 6枚目が Absinthe 。93年(92年録音)。アブサンとはニガヨモギのリキュール、アルコール度が高く、安い酒だったため、ベルレーヌやゴッホ、ロートレックなどの有名人が中毒で命を縮めたといわれているらしい。ニガヨモギに向精神作用があるということで禁止される国もあったとのこと。
 音楽もヤマンタカ・アイが加わっていないこともあり、今までの作品とは大きく印象が異なる。澱んだ感じのアンビエント系であり、最後の曲は、虫がもぞもぞしているような不気味な音がずっと続くなぞ、イカレている。Zorn でいえば、Kristal Nachat や Elegy 系統の音ということか。

 ということで、全6枚、Zorn の多面性がよくわかるこのグループ、そんなに何回も聴くわけじゃないけど、コレクションに加えて、1年に数回でもターンテーブルに乗れば、そこそこの価値のある音楽といえるのではないだろうか。
by ay0626 | 2012-03-24 13:29 | jazz