デビューの頃 1956-1959年 セシル・テイラー (6)
木曜日だったか、日銀が思い切った金融政策を発表してそれに市場が反応、円安と株高が一段と進んだ。市場が金でじゃじゅじゃぶになって、金は何処へいくのか。資金が必要な中小企業に金がいくかといえばそうは思えない、彼らには信用がない、貸し手は充分な金利が取れないのに信用リスク(元本のリスク)など取れるはずがない、従って真に必要なところにはいかない(超低金利状態で貸し出しが伸びなかったのは事実)。しかし、じゃぶじゃぶの金はどうかしなくてはならない、遊ばしておく訳にはいかないので。それは投機的な市場にいかざるを得ない、株式や不動産、コモデティなどなど、どう見てもバブルの再来を狙っているのじゃないか、その傾向は今も見えている。
そして、もう一つ、円安が進めば輸入インフレが進む、原子力が禁じ手にされているため、どうしたって高いエネルギーを輸入しなければならない、輸出は増えるかもしれないが本当に収支は改善されるか、改善されなければ酷い円安になり、2%どころではないハイパー輸入インフレがやって来る。
まぁ、そう悲観的に考えることはない、景気なんて「気」のもの、何をやっても上手く行くときは上手く行く、世の中そんなもん。持っている投資信託もかなり値段が上がった、ありがたや、ありがたや。
年度初めとしては上々のロケット・スタートの世の中、自分を振り返ると(またもや運気低迷か)疑問符の付き捲る仕事振り、生活振りだが、そのうちいいこともある、そうでも思わなければやっていけない。ということで、改めて原点から(何の脈略か?原点だの初心だのはこういうときに使う言葉)。Cecil Taylor のデビューの頃、久しぶりに聴いて見ました、初期4作品+1。
デビュー作 Jazz Advance 、1956年9月録音。驚くなかれ、自分が生まれるより前に録音された作品。所有しているのは2010年の EMI ミュージック・ジャパンの版だが、音は時代がかってはいるが充分に聴ける、60年近く前の録音でもそれなりなんだ、と感心する。
録音メンバーは、Buell Neidlinger (b)、Denis Charles (ds)、Steve Lacy (ss, track2,4)。オリジナル盤は6曲収録だけれども、後に1曲増補された(自分の持っているのは6曲収録のもの)。
一聴、変な感じはするけれども、どう聴いてもジャズそのもの。自分のCDコレクションには他に50年代録音のジャズ・アルバムはないので何ともいえないが、当時としてはかなり前衛的な作品だったのだろう。Taylor の初アルバムという歴史的意義だけではなく、Cecil Taylor はデビュー当時から Cecil Taylor であったことを教えてくれる作品、この時、Cecil 27歳。3曲目のエリントンの Azure は後の演奏の萌芽を充分に感じさせる、また5曲目の You'd Be So Nice To Come Home To はコール・ポーターの曲をアブストラクトな現代音楽風にしたピアノ・ソロ、後の Silent Tongue や Indent などを想起させる、最終曲の Rickkickshow は、素晴らしく躍動感に富んで、聴き応えのある作品。
Steve Lacy もこの時23、4の若造で、音楽理論を Taylor から学んでいたらしい。若々しい演奏だが2曲しか参加していないのが残念。Buell Neidlinger と Denis Charles は、初期の Taylor のリズム隊、Neidlinger はその後、クラッシクの世界にいったという。やや Denis Charles の叩き方に時代を感じる。
次が、At Newport 、1957年6月のライヴ作品。LP の A面が Taylor カルテットの作品(B面は Gigi Gryce & Donald Byrd クインテットの演奏)。録音メンバーは Jazz Advance と同じ。
司会者の紹介に続いて、多分 Taylor が曲名をアナウンスして演奏が始まる。Lacy のソプラノが全面に活躍し、57年録音とは思えない良い音で躍動感溢れる演奏が繰り広げられる。まだまだ、充分ジャズの範囲での演奏。2曲目、3曲目が Cecil のオリジナルだが、特に2曲目などは印象に残る。
このアルバム、LP の半分ということもあって、なかなか復刻されなかったが、単独では2002年に、そのほか Jazz Advance にボーナスとして収録された。自分の持っているのは 60-61年の Nat Hentoff Sessions のボーナスとしてのもの。
Looking Ahead!、1958年6月録音。Buell Neidlinger (b)、Denis Charles (ds)、Earl Griffith (vib) という録音メンバー。バイブラフォンが加わるのは珍しい。全て Cecil のオリジナルによる録音(1曲のみ Griffith との共作)。ジャズそのもので、Jazz Advance より前衛色は薄いかもしれない。
この Cecil ~ Neidlinger ~ Charles のトリオを中心に作られたのが Love for Sale、1959年4月録音。LP でいえば A面がピアノ・トリオ(コール・ポーターの作品を演奏)によるもの、B面が Bill Barron (ts)、Ted Curson (tp) が加わったクインテットによるもの。再発時に1曲追加されたが、自分の持っているのは5曲収録の旧版。最初の曲の出だしなど、Cecil Taylor の雰囲気があって(低音を力を込めて弾くところなんぞ)好き、Neidlinger のベースも変わっていて良いが、スタンダードを基にしている分、充分にジャズ。B面の管が入る2曲は、Cecil のオリジナルで雰囲気が違うのがはっきりと判るが、まだまだ調性もある普通のジャズの範疇。
この流れとは別に録音されたのが、大御所 John Coltrane との共演盤 Hard Driving Jazz (Coltrane Time 、1963年に再発されたときの題名、そりゃ Coltrane の方が名前の通りが良いので仕方ないが)。1958年10月録音、メンバーは Kenny Dorham (tp)、John Coltrane (ts)、Chuck Israels (b)、Louis Hayes (ds)。他のアルバムより音が悪く、籠り気味。Cotrane もブイブイ吹き捲るというわけではないので、何気なく聴いてしまうと、普通のジャズという感じ。Cecil の側から見ても Coltrane の側から見ても特に重要な作品とは思われない、2大巨頭合間見えての作品には違いないのだが。
ここら辺りまでが、ジャズらしいジャズをやっていた Cecil くん。60年辺りからもっと尖がってきて、62年頃には完全無調男となってしまう訳、人生に大きな転機のやって来る前夜といったところ。
この頃、CD を買わなくなった。この1か月ほど1枚も購入していない。新しいものに手を出さなくなったせい、ここまで手を広げるとそんなものかも知れない。じっくりとあるものを聴き直してみるとしようか、また違った発見があるかも。