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日常茶飯事とCDコレクション
by ay0626
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アメリカン・クラヴェの傑作群1986-1988 アストール・ピアソラ

 2008年か2009年のことだとは思うが、記憶が定かではない。NHK の9時のニュースだったか、NHK 特集だったかも覚えがないのだが、バンドネオンについての放送があった、ほんの10分にも満たない埋め草のような扱いではあったが、この番組のせいで(お陰で?)今の音楽狂いが再発したのだから、何処に縁が転がっているか判らないものだ。
 番組の内容は、バンドネオンという楽器の現状を特集したもので、バンドネオンはタンゴに欠かせない楽器だが、もともとはドイツの会社が作ったこと(発明者もドイツ人の Heinrich Band で1847年の完成)、楽器の構造が複雑でなかなか新品ではいい音が出ず、演奏家の間では昔の楽器に手を入れて使っていること、日本人もそれに協力していること、などが紹介されていた。アルゼンチンの音楽であるタンゴに使われるのだから当然出自もアルゼンチンと思っていたのでこれは驚いた、と同時に数回聴いただけの Astor Piazzolla のCDがあったのを思い出した訳だ。
 聴き返してみるとこれが素晴らしく良い、1日に何度も聴いて嵌り込んだ。何で購入した当時(多分1990年代半ば頃)にこの素晴らしさが判らなかったのだろうか、思い出してみれば RIO の音楽にどっぷり漬かっていた頃、少しでも判り易い(判り難い、ではない、念の為)音楽は、聴くべきものの対象外にしていたのだ。RIO 狂いから10年以上が経ち、こっちも歳を取って、こういう音楽もいいなあ、と思えるときにドンピシャな(言い方が古いか)「大人のインストルメンタル」をジャズほどの即興も激しさもないタンゴで聴かせてくれた Piazzolla に嵌らない訳がないのであった。
 この後、ますます無節操な音楽探求、CDコレクションの道を再度歩き始めることになる、それもまた楽しからずや、と言ったところ。

 聴き返したアルバムと言うのが、傑作との誉れ高い American Clave の3部作、嵌るのも当然の演奏であるし、その後も LIVE IN WIEN、TRISTEZAS DE UN DOBLE A などの傑作ライヴ盤を聴きズブズブと底なしの Piazzolla 沼に落ち込んでいくのであった。American Clave は、先日も書いた通りKip Hanrahan のレーベルで、Kip のプロデューサーとしての才能と円熟したヌエヴォ・キンティート(ニュー・クインテット~5重奏団のこと、スペイン語ではこういうらしい)の演奏が相まって素晴らしいアルバムが出来た。Kip のプロデューサーとしての腕は、自身のアルバムでもはっきりと出ていたが(例えば、Jack Bruce や Don Pullen、Alfredo Triff の使い方を見よ)、Piazzolla の3部作が最も世評に高いのは当然とも言える。

アメリカン・クラヴェの傑作群1986-1988 アストール・ピアソラ_a0248963_20545287.jpg 3部作の最初のアルバムが TANGO: ZERO HOUR、1986年。Astor Piazzolla (bn)、Fernando Suárez Paz (vn)、Pablo Ziegler (p)、Horacio Malvicino (g)、Héctor Console (b) という鉄壁のキンティートで精緻に組み上げられた音楽は適度な緊張感とバンドネオン、ヴァイオリンの情感を高める調べで、極めて気持ちの良い音楽に仕上がっている。人のざわめきから鋭く切り込むようなバンドネオンで始まる Tanguedia III から、Milonga del ángel 、Concierto para quinteto などの名曲を経て Mumuki で終わる至福の46分。特に Concierto para quinteto の後半のギターは、背中がぞくぞくするようなフレーズ連発で、Piazzolla のキンティートでは、裏方に回るほうが多いギターにも焦点が当てられている、最後の Mumuki でもギターのソロから始まる。
 Piazzolla 自身も相当本作には自信があったようで「生涯最高 の録音」、「我々はこのレコードに魂を捧げた」と言ったとか・・・3部作最終作の LA CAMORRA でも同じようなことを言っていた感じはするが、甲乙付けがたい傑作だから仕方がないか。

アメリカン・クラヴェの傑作群1986-1988 アストール・ピアソラ_a0248963_20551133.jpg 第2部が THE ROUGH DANCER AND THE CYCLICAL NIGHT 、1987年。このアルバムは、通常のキンティートとは異なり、Piazzolla 、Paz 、Ziegler の3人に加え Paquito D'Rivera (as, cl)、Andy Gonzalez (b)、Rodolfo Alchourrón (g) が加わる、この3人のうち Gonzalez は Hanrahan のアルバムでもお馴染みで、もともとラテンの人だからアルコは不得意、このアルバムでも殆どピチカートばかりの演奏で、ちょっと違和感があるか。
 第1作、3作と異なり、短い曲が14曲も並ぶのは、副題に TANGO APASIONADO と付いている通り、オフ・ブロードウェイ・ミュージカルの舞台音楽作品であった訳だ。また、よくは判らないが、題名は、ホルへ・ルイス・ボルヘスの詩から取られているようだ。ボルヘスはアルゼンチンの詩人・作家でちょうど大学生の頃、集英社から出ていた「新しい世界文学全集」といった叢書に南米作家が多数収録されていて、ボルヘスの「ブロディーの報告書」「汚辱の世界史」など訳もわからずに、読んだと言う事実のみを目的として(つまりはスノッブ的欲求のために)、読んだ。他にも、これは面白かったがガルシア-マルケスの「百年の孤独」とかフリオ・コルタサルの「石蹴り遊び」なども普通に読んでいたものだ、時間の経過のなんと早いことよ。
 音楽的には、短い曲が多く、緊張感という点では落ちるものの、管楽器が入ることで、ちょっと雰囲気が変わることもあり、41分弱、飽きずに聴くことが出来る。
 また、赤と黒のみで作られたジャケットも魅力的、ちょっと厭らしさも感じさせる。

アメリカン・クラヴェの傑作群1986-1988 アストール・ピアソラ_a0248963_20554223.jpg 最終作が LA CAMORRA 、1988年。通常の5重奏団での演奏。ヴァイオリンの印象が強く、泣きという言葉がぴったり。最初の Soledat 、5曲目の Fugata はバレーのために書かれたもの、6曲目、7曲目の Sur は、映画音楽のようで87年に Roberto Goyeneche などと共同でLPが出ている。
 なんといっても、聴き所は2曲目から4曲目の表題3部作で、メロディクなところとリズミックなところが交錯するスリルは尋常ではない。この5重奏団最後のアルバムとして、 TANGO: ZERO HOUR に勝るとも劣らぬ傑作を物したのは、Piazzolla にとっても幸せであったと思う。

 この後、5重奏団を解散、バンドネオン奏者をもう一人入れ、ヴァイオリンの代わりにチェロを加えた6重奏団を作ることになる。この6重奏団の暗さも好きなのだが。それも短期間で解散し、1992年死去、71歳。

 Piazzolla について書きたいことは沢山あるが、アルバムが多過ぎて何をどう書けばよいのか。気長に纏めて行きましょう。
by ay0626 | 2012-04-08 14:14 | 音楽-その他