弦楽四重奏もそんなに退屈ではない クロノス・カルテット (2)
会社関係は殆ど出さない、20年ほど前、虚礼廃止の掛け声のもと、いの一番に槍玉に上がったのが年賀状。数日の休みが明ければ嫌でもまた顔を会わせる訳だから、当然といえば当然の虚礼なのだろう、これが定着したのは本当に良いことのように思える。日本郵便は、日本の良き慣習、とコマーシャル・メッセージを打つが、これもそのうち廃れていく慣習となろう、郵便会社職員の皆さんは年賀状ノルマが大変だと聞く。
自分の父親も大分草臥れてきて、頭も若干呆けてきている。昨年、一昨年くらいから、父親宛の年賀状の添え書きに「高齢のため、ことしで年賀も最後としたい」と書いてくる人も増えた、なかなか潔いと思う。多分父親も自覚を持って年賀状に字がしたためられるのも今年が最後だろう、同じようなメッセージを書けばよいと、見本を書いておいた。
今日は、凄く寒くなるといっていたが、日中は陽の光も優しく、良い冬の日という感じ。朝掃除をして、ちょっとした片付けを終えるともう後はボケッとするだけ。こんな日は、ミニマル・ミュージックでも・・・と引っ張り出してきたのが Steve Reich の Different Trains/Electric Counterpoint 。ついでにあと2枚を加えて、Kronos Quartet の第二回。
Steve Reich の Different Trains/Electric Counterpoint 、1989年作品。Kronos は Different Trains という3つの楽章から成り立つ27分程度の曲を演奏している。
この作品集、非常に世評に高く、ロサンジェルス・タイムズの選ぶクラッシク25選の16位に選ばれ、またグラミー賞の最優秀現代音楽作曲賞にも選ばれている。確かに、汽車の効果音と人の声の繰り返しによる、ビートといっても良い歯切れの良いリズムとミニマル感は、ついつい聴き入ってしまう気持ちの良さ。Reich が現代音楽の中で特に良く売れるのも首肯できようというもの。
併録されている Electric Counterpoint は、Pat Metheny によるギターの多重録音作品。ミニマルの典型のような作品で、非常に聴き易く気持ちの落ち着く作品。Pat Metheny は、ジャズ・ミュージシャン、ECM や Electra などのレーベルで活躍している。どうも Bill Frisel と混同してしまって困る(のは、自分だけ?)。
同じく1989年の作品が、Terry Riley の Salome Dances for Peace、2時間にも及ぶ長大な作品。 音楽の専門家でもない自分にとっては、あまり面白みを感じない作品(普通の弦楽四重奏との違いが判らない)。Riley の作品では CBS(メジャー・レーベル!)から出た A Rainbow in Curved Air (1969年)や Shri Camel (1980年)などのイカれたヒッピーおじさんのころの作品が好きで、テープ・ループにサキソフォンを延々と吹き続ける(演奏をテープに録音し、それを流した上にまた音を重ねるといった方法で)、危ないクスリなぞ使っていれば、必ず異世界へぶっ飛んでいってしまうような怪しい魅力が満載だった。しかし、90年頃になると、管弦楽やこうした弦楽曲も作曲するようになって、パフォーマーの側面がなくなり、落ち着いた感じの(本当はどうだか知らないが)現代音楽作曲家になってしまったように思う。1935年の生まれだから、90年といえば55歳、落ち着くには妥当な年齢ということか。
表題の Salome とは、新約聖書に出てくる女性の名前。祝宴での舞踏が上手かったため、その褒美に何が良いか聞かれ、「預言者ヨハネの首」と答えた。そのため、哀れ預言者ヨハネはお盆の上に首を晒すことになったのである。これは、なかなか衝撃的シーンゆえ、様々な絵画に描かれたが、それ以上に有名なのがオスカー・ワイルドの戯曲、その背徳性ゆえに暫く上演できなかったという(因みにこの作品、フランス語で書かれた、英訳を担ったのがワイルドの同性愛相手であったのは有名な話)。出版された本の挿絵が有名なビアズリー、自分など ’サロメ' といえばこの白と黒だけで構成された絵を思い浮かべてしまう。
次が 1990年の Black Angel 。表題曲の Black Angel は、Kronos Quartet のリーダー David Harrington に、この曲のため弦楽四重奏団の結成を決意させたものとして有名。
Black Angel は George Crumb (1929年生まれ)の18分ほどの作品。非常に暗く重いイメージの作品で、サブ・タイトルが "Thirteen Images from the Dark Land" という、地獄の底から沸き立ってくるような音。もともとが ’electric string quartet' のための曲、音にもかなりエフェクトが掛っていたり、人の声も多用されている、いかにもの現代音楽。
次の Spem in Alium (Thomas Tallis) は16世紀の作品のようで、Kronos 自身が編曲したもの、現代音楽と古楽に近い作品を並べるのはいかにも Kronos らしい。 他には、ハンガリーの作曲家 István Mártha(この曲も泣いている人の声が入っている、題名が Doom. A Sigh だもんなぁ)、アメリカの前衛作曲家の Charles Ives(古いピアノと歌の録音に Kronos の演奏を被せている)、そしてソ連を代表する作曲家 Dmitri Shostakovich の作品が並ぶ。前衛と落ち着きが交差する作品集。こうしたごった煮的なヴァラエティーは、Kronos を聴く楽しみの一つ、単一作曲家の作品集では飽きてしまうこともあるが、こうした作品集にはそれがない。
ちょっと民族系の演奏家ばかり聴いていたので、耳直しに。耳が曲がったのか、といえばそうではありませんが。偶には、長く聴いていない CD でも。